肛門の左右両脇には、イタチやスカンクのように、悪臭を放つ一対の分泌腺である肛門嚢(のう。袋のこと。)があります。その内容物は、ウンチをする際や、興奮した時に、導管と呼ばれる管を通って、肛門近くの開口部から排出されます。内容物は大抵、魚の腐ったような臭いを発しますが、その性質は様々で、サラッとした液体のような子もいれば、ドロッとした粘性の高い泥状の子もいます。肛門嚢の導管がなんらかの原因で閉塞したり(ドロッとした子だと元々詰まりやすいです)、内容物の分泌亢進などによって、嚢内に分泌物が充満し、そこに細菌感染が生じると、肛門嚢炎になります。
原因は、慢性的な軟便、または下痢を起こしていて、肛門周囲が汚染されている子で起こりやすいとされています。また、肛門括約筋などの筋肉の緊張力が低下しやすい、小型犬や肥満犬でもよく見られます。肛門嚢炎に化膿菌が関与し、導管の閉塞が持続すると、嚢内は膿で充満し、膿瘍(のうよう)となります。犬では肛門周囲の疾患の中で最も発生頻度が高く、年齢や性別による差はありませんが、特にミニチュア・プードル、トイ・プードル、チワワなどの小型犬に多いとされています。
起こる症状として、肛門嚢の炎症や、分泌物の貯留に伴う、肛門周囲の不快感に起因した様々な症状が見られます。つまり、肛門周囲を舐めたり噛んだり、肛門を地面や床に擦り付けて歩く独特の動作をしたり、自分の尾を追いかけてグルグル回る動作をしたりします。ひどい時は、慢性的な不快感のために犬猫の性格が変わることもあります。肛門嚢炎が進行し、膿瘍が起きると、発熱から食欲低下などの症状が現れ、さらに進行すると、肛門 嚢の部分の皮膚が破れて穴が開き、膿の排出、出血が見られます。
予防には定期的に肛門嚢をしぼるのがよいです。病院で身体検査の際に獣医師がしぼる方法を習えば家庭でも行えます。皮膚に穴が開いたり膿が出ている場合には、抗生物質治療や消毒が必要ですが、雄犬では肛門周囲腺の腫瘍、雌犬では肛門嚢の癌も疑われる場合があります。
※犬は生後5~7年で人間の「中年期」に入ります。 |